淡路島ロングライド感想〜淡路にもっと自転車専用道を〜

昨日4年ぶりに行われた淡路島一周サイクリングイベント、淡路島ロングライドに参加してきました。1700人以上が150kmを丸1日かけて走る壮大なイベントでした。

ちょっと危なさを感じた

私はこの淡路島行政や本イベントに深く携わったわけではありませんので、初見の一般人としての率直な印象を述べますと、公金を使うならもっと安全で短い経路にして子供も参加できるイベントにするか、もっと参加人数をしぼって、一定のサイクリングレベルをクリアした人の限定参加にした方がいいと思いました。

現地の大量のスタッフ、機材、警察官の人件費も考えるとこのイベントに最低でも数千万円が動いていそうですが、その予算は1円でも多く自転車専用道建設に振り向けるべきです。それだけで10年で洲本〜鳴門の淡路島横断する自転車専用道ができるでしょう。

欧州どころか他の日本の自転車観光エリアと比較しても、あわいち(淡路島一周150km)の経路はあまりにも危険すぎます。3連休だったのもあってすごい交通量で、追い越し禁止車線にたくさんのダンプや乗用車が走って、怖くてサイクリングどころではありませんし、子供や親、初心者を連れて走るなんて論外です。

ベルギーの無名の田舎の自転車道

あわいち

淡路島は家族も外国人も楽しめる素晴らしい観光地です。だから淡路のサイクリングはもっとたくさんの人に開かれたものであるべきではないでしょうか。それに必要なものは、なにより子供も高齢者も安全に快適に走れる自転車走行環境であり、一部の練度の高いサイクリストのみが可能なものではないと思います。これでは下手をしたら、サイクリストが地域の嫌われ者になってしまいます。県の自転車担当デスクの主業務が苦情対応、なんて笑えない話になってしまいます。

あわいちは起爆剤として役目を果たした

スポーツサイクリスト中心だった関西サイクルツーリズム環境において、「あわいち」は起爆剤としての役割を十分に果たしました。様々な予算を引っ張る名分が立ち、淡路島の名が上がりました。でもこれからもそれにこだわっていては、必ず住民や他の産業との禍根を産んでいきますし、地域消費としての発展性も限界があります。コンビニだけ儲かる自転車練習場になってしまってはダメです(今回のエイドステーションのローソンのパンとおにぎりはサポート側としては助かりました!)。

別にあわいち自体は悪いものではありません。走りたい人が法律を守って走れば良いのです。公的予算を大量に突っ込んで推進する段階を卒業したと言うだけです。

例えるなら、地産食材のPRで大食い選手権を開いて一部の大食いマニアたちから人気を博すようになったので、そればかりだと批判もあるから、そろそろ適度な量を楽しむ一般人向けのPRにシフトしていこう、という話です。

鳴門の渦潮と明石大橋と島々や対岸の都市を見渡す海沿いの道をサイクリングして、おしゃれなカフェや温泉で楽しむ、子供から高齢者、外国人まで広く楽しめるサイクリング、そういうのでいいのです。

そこには必ずしも100万円のロードバイクを毎日みっちり整備してピカピカに磨いて来なくてもいい、ママチャリでもレンタルのE-Bikeで全然走って良いと思います。

150km一周を目指そう!というのは一部の高みを目指すアスリートへのおまけ程度の売り文句であって、行政がすべきは5km~20km程度の生活・観光のための、子供と高齢者にとって安全な自転車走行環境の構築です。そして洲本城や牧場、アートなどより深い淡路島の魅力を探索してもらうツールとしての自転車の活用です。

個人の努力に頼るのではなく、ちゃんとインフラを整えよう

当然ですが、日本は民主主義国家です。よって国民の大多数が望むことでなければ長続きしません。議会派閥制の国なので、時には国民が望んでいなくても、政治家が票を集められる、票を持っていける団体が望むことが最優先されますが、それも長くやれば民意を失っていきます。

多くの国民、特に都市生活者や子供・高齢者含めて望むことは、安全な自転車走行環境です。欧州では、母親団体などが国に自転車道を作れとデモをやってきた歴史があります。

この国では、そうした母親等の政治的発言は稀です。年間100人程度の子供が自転車搭乗中に亡くなっていても、歩道を追い出されて車道を走れと国から言われても、必死に耐えて毎日子供を自転車に載せて送り迎えしています。

それに対して国や自治体が言ってきたのは、「個人のマナー向上で頑張れ」でした。

欧州、米国、豪州などではそれに対して、「国が安全な自転車走行インフラを作ろう」となり、日本の数百倍の自転車専用道が作られています。

実は日本は、世界第2位の自転車分担率(日常の移動で自転車を使う率)を誇る国です。でも先進国では最低レベルの自転車インフラ投資で、最も劣悪な自転車走行環境で人々は走らされています。何か自転車の事故がおこれば、メディアも国も「個人が悪い」と総攻撃して、誰もインフラを責めません。

欧米で当たり前に起きている自転車デモも、日本では歴史上ありませんでした。それは優秀な日本自転車メーカーが世界一安全な車と自転車を供給し、優秀な日本人が圧倒的民度とマナーで車と自転車を乗りこなしてきたからです。

しかしそろそろ、そういう対処療法だけではなく、本道を踏むべき時期です。

島一周スポーツサイクリング:見本になる台湾

日本自転車界を駆逐して世界最大の自転車生産国となった台湾では、台湾一周自転車道が完成しました。これは淡路島一周とは違い、国際規格の自転車専用走行帯が走っています。欧州に比べれば及びませんが、アジアではトップレベルだと思います。

とは言え兵庫県や淡路3市がどんなに頑張っても、台湾の数十倍の国家予算を持つ日本政府は、「金がない」「土地がない」と言って当面まともな自転車道建設はせず、個人のマナーと大会側の運営努力に委ね続けるしょう。この50年それでやってきて、誰も声をあげないのだから当然です。

そもそも欧米豪や台湾・シンガポールなどが自転車インフラを作っているのは、人口の都市集中・脱炭素・E-Bikeの登場による新交通システムの確立など色々な国家政策があるのですが、それほどのビジョンをもってインフラ政策を主導するのは日本人の感覚だと難しいのでしょう。

淡路島サイクリングイベントの一案

では現状の自転車インフラで、本当に淡路島の魅力を引き出す、持続可能なサイクルイベントはどういう形でしょうか?私が提案するのは、もっと幅広い人が参加できる自転車イベントです。

  • 園内自転車障害走、周辺20km程度の観光ライド、150kmの少人数ロングライドの複合イベント
  • 明石海峡公園(今回のスタート地点)の中だけで完結する周回・障害物ルートを設定
  • 鳴門にレンタルEバイクを置いて、自転車で登って渦潮を上から見る。2028年以降は鳴門大橋を渡る。
  • 明石海峡公園〜鳴門間でサイクリングバスを運行して、自転車を載せて行ってもいいし、人間だけ行ってレンタサイクルでもいいし、片道サイクリングして帰ってきてもいい。
  • 150km走る人は、事前にアプリインストールさせて150kmを8時間以内で走った経験値ある人だけが人数限定で参加できる。GPSで管理して、危険エリア侵入や集団彙集したらペナルティ。メカトラブル対応車だけ準備する。でも帰ってきたら最後に会場で表彰式やって、他の一般参加者から拍手される。

こうすれば、わざわざ危険な150kmを、ものすごい数の誘導員を配置して、連休の混雑時に交通規制する必要もありません。何百人も行列して窮屈に走らなくてもいいです。サイクリストは仲間内だけで楽しむのではなく、一般人や子供たちからも拍手をあびます。そういう世代間、属性間の交流のあるイベントにすれば、淡路のサイクリングはもっと広がっていくと思います。

みなが楽しめる淡路島サイクリングに向けて。

一番大切なのは、市に、県に、国に「淡路島のサイクリングはこんなに素晴らしいんだから、子供も高齢者も一緒に楽しめるように、自転車道を作ってくれ!」と声を上げ続けることです。サイクリストのマナー啓発をしたり勉強会を開いたりドライバーに注意喚起をしたりも大切ですが、根本的な対策も必要です。

日本は台湾や欧米のようにトップダウンの国ではありません。良くも悪くもボトムアップの国です。自転車を国家政策と捉えて何千億円もかけて自転車道を作るなんて政治家は、永遠に現れません。日本人の環境適応の力は素晴らしいですが、環境自体を変える努力も必要です。

そのためには、一部のマニアが楽しむマイナースポーツではだめです。広く市民が楽しんで、健康にも観光にもなって地域消費も住民福祉も健康寿命も増進する、懐の広いサイクリングを目指さなくてはいけません。

これは個人的な思いですが、公金で行う自転車振興の主体はあくまで子供・家族連れ・カップルなど一般層であって、一部のマニアや富裕層であってはなりません。シティサイクルでもTシャツでも参加できるものであるべきです。20万円以上のロードバイクとピチピチのウェアとビンディングシューズを着なければ参加できないイベントに、自転車インフラが整備しきれていない自治体が多額の公金を支出するのは違和感があります。やりたい人が集まって有志でやるなら全然良いと思いますが、公金がなければ成り立たない規模で続けるというのは、政策評価として疑問符です。

欧米でサイクリングが文化になっているのは、行政が基本的なインフラを整備したからこそ、民主導でやれているからです。実際私が見たサイクリングレースには子供もしっかり参加して、家族で楽しんでいました。

今回のあわいちの経路では、自転車で遊んでいる地元の子供達を見ることはできませんでした。

子供が安全に子供だけで自転車に乗れる環境がなくて、高齢者が免許返納してもちゃんと自分で移動できる環境もなくて、都会から一部のマニアが狭い道を高速走行してコンビニでカロリーメイトだけ買って帰っていく・・・そんな「サイクリストの聖地」は寂しい限りです。

「150km完走」はキャッチーですが、淡路島は全然「1泊2日サイクリング」とか「絶景カフェ巡り」とか「走ってあなご焼き食べて温泉入ろう!」とかそういうのをメインで売っていってもいいと思います。

現にしまなみ海道は、しまなみJAPANさんとお話ししましたが、5年ほど前から「70km走破」ではなく、橋や途中の島々での立ち寄り宿泊、レモンなどを押し出して、「走り抜けるサイクリストだけ集客しても地域消費や住民理解が得られないことから、もっと初心者層を開拓してPRやコンテンツ造成の中心に据えていく」方向にシフトしています。尾道市のウェブサイトもそう言っています。丹後もそうならなくては、と当時強く思いました。

いつか日本中・世界中の老若男女が自転車で関西空港から淡路島を通って鳴門大橋を渡り、四国・中国を楽しんでアジア最高の自転車観光地の入り口に淡路島がなることを願っています。

丹後から。