E-Bikeには内装変速が良いと思う(E-Bikeのチェーントラブルについて)
50台以上のE-Bikeを運用して3年以上やっているレンタル事業者として、ずっと思っていることがあります。
E-Bikeには内装変速があってます。
というか電動と外装変速との相性が悪すぎます。内装への偏見をなくして公平に比較してみましょう。
E-Bikeあるあるトラブル:チェーン切れる・外れる
お客さんからよくE-Bikeのトラブルはある?と聞かれます。購入される方は高いものですし、周りで持っている人も少ないから当然です。
業者としてお答えするなら、弊社のE-Bike合計走行距離は優に1万キロは超えていますが、
パナソニック(旧XMシリーズ除く)、ヤマハ(旧YPJシリーズ除く)、ボッシュ、ジャイアントなどの世界的電動ユニットに関してはトラブルはありませんし、あっても小売店経由で問い合わせればすぐに治ります。
YPJシリーズについてはスイッチ動作不良やユニットとフレームの接着不良によるガタ付き、音鳴り、バッテリー端子の破損など細かい問題もありましたが、次世代ワバッシュ・クロスコアではほとんど改善されていますし、これからもさらに改善されていくでしょう。
問題は、特に初動が強めのヤマハ系ユニットにおいて、発進時・変速時にチェーンが切れたり外れたりすることです。そしてそれは電動✖️外装変速の特性上、改善が難しい問題です。
ご存知E-Bikeは最大で人力の2倍、50~80Nmほどのパワーが加わります。そして外装変速は、変速中に強いテンションをかければ外れたり、最悪チェーンが切れるかディレイラーを変形させてしまいます。その特性を理解して、非電動車より優しく漕ぎながら変速すれば問題ないのですが、初心者や激しいライド中はそれを忘れてしまいます。まして長く乗っていてギアワイヤーの伸びなどでディレイラーの調整が緩くなってきた時は危険です。
実際弊社のトラブル発生率ではパンク以上にチェーントラブルがぶっちぎりで多いです。
なのでユーザー側の短期的な処置としては
- 非電動車以上にこまめにディレイラー調整をする(E-Bike購入層の多くの初心者層ができるのか?)
- E-Bikeに慣れて常に優しく漕ぎながら変速する(疲労時に確実にできるか?)
- チェーン切れしてもいいようにチェーンリンクや工具を常に携行する(ちょっと面倒くさい。。。)
です。購入時においては
- ブリジストンTB1eのようにフロントモーター+外装変速のE-Bikeを選ぶ(前方が重くなるしアシストパワーが弱くなるので現状のモーター技術ではスポーツ用に難がある)
- シマノなど初動が弱いユニット搭載のE-Bikeを選ぶ(でも発進停止が楽になるE-Bikeの良さは犠牲になるし、坂道で問題は再発する)
が現実的です。
これは同じレンタル業者向けですが、内装・ベルトドライブはレンタサイクルビジネスに計り知れないメリットをもたらします。無変速の街乗り自転車がメインのレンタサイクル店は関係ありませんが、スポーツサイクルレンタルにおける最大のコストは、人件費含めてディレイラー関連の整備に起因するはずです。特に弊社のような地方部(そしてスポーツサイクルに適する地域は往々にして地方になる)ではプロの整備士が少なく事業継続そのものが困難になります。
サイクリストと同じく毎日チェーンの油を拭き取り塗り直し、ディレイラーをミリ単位で調整する、それができる人員を正規雇用して回すならレンタサイクルの単価は1万円あっても収支がとれません。その所要を大きく削減する内装・ベルトドライブがスポーツサイクルで可能になるなら、日本の自転車観光市場に革命的な変化をもたらすと、少なくとも4年やってきた現場としてはそう確信します。でもそれができない理由がこの国の市場にはあります。
そもそも論としてユーザー・メーカーの皆様にお伝えしたいのは、
内装変速(シャフトドライブ含めて)をスポーツ用途としてもちゃんと評価して、合理的に選んでほしいということです。
E-Bikeと内装変速の相性の良さ
今年1月にオランダに行った際、無段階変速の内装ギア・ベルトドライブがついたE-Bikeで街中を走りましたが、本当にパワーと安定性がよく両立していました。下のCYCLINGABOUTさんのように、地球一周レベルのロングライドには内装+ベルトが一番という方もいますし、1万人以上がいいねをしています。
私は変速技術は素人ですが、車やバイクでは内装ギアを使っていて、外装変速は見たことがありません。それは強力なパワーを伝達し、振動や長距離の運行でも安定して駆動することが求められているからでしょう。多少の重量増はあっても、それはパワーと安定性のメリットで補う発想です。
では、外装変速でないバイクや車は、スポーツ的な走りはできないのでしょうか? そんなことはありませんね。
多くの日本の自転車関係者は口を揃えて言います。「内装は重い」と。確かに内装変速にすれば、軽いカーボンベルト駆動(ベルトは仕組み的に外装変速につけられない)にしても外装に比べて重量が700~900g程度増加します。
でもモーターパワーと脚力の融合を楽しむE-Bikeにおいては、それくらいの重量増は全く許容範囲です。サイクルスポーツは1日で行うタイムアタックだけではありません。
内装は駆動効率が外装より落ちるという話もありますが、それもグレードの話で、Rohloffの内装14速(!)などは5速周辺では外装より駆動効率が高いと豪語しています(本当か?)。少なくともちゃんと注油・整備されていない、あるいは泥砂がかんだ外装チェーンより、内装+ベルトの方が圧倒的に駆動効率は高まります。
長距離をたくさんの荷物を積んで行ったり、非電動車では登れない超激坂をE-Bikeと上手く連携しながら登っていくのもまたスポーツですし、恋人友人家族とゆっくり走るレジャーや、自然や街を探検する旅も自転車の楽しみ方です。
それらにおいて内装変速は全く卑下されるものではありませんし、大多数のユーザーにとって合理的な選択肢だと思います。実際欧州の自転車展示会に行きましたが、欧州では多くの内装・ベルトドライブ搭載のスポーツ車が出ていますし、E-Bike市場の盛り上がりとともにたくさんのベンチャーが内装変速に挑んでいます。
ではなぜ、日本ではビアンキのお金持ち向けE-Bikeを除いて、どのメーカーも外装ギアばかりなのでしょうか?
そこには日本自転車界特有の、「外装カースト差別」があるのではないか、と私は邪心しています。
ロードバイク初心者として感じる、日本の外装変速カースト
まずあまりにも基本的なことですが、道具の良し悪しは必ずしも値段によってつくものではありませんし、全ての用途に優れた万能の道具はありません。それぞれ得意不得意があります。ハイエースとポルシェのどちらが優れた車か、それは「状況による」しかないでしょう。
私はE-Bikeから入って、最近は非電動のロードバイクやクロスバイクも楽しみ始めました。非電動車も良いもので、レースやフラットな地形で、あるいは鉄道や車に軽く乗っけていくなどの用途では大いに活躍します。アルベルトもPASも生活用途に特化した素晴らしい道具だと思います。
ですが、社会的なマウンティングのための道具には絶対的な上下が存在します。人間は社会的生物なのでマウンティングによって社会秩序を保ちたいという本能的欲求が常にあります。そのための道具なので当然上下がつきます。そして現代は資本主義社会なのでそこは価格差をつけることで企業もマウティングしたいユーザーもWinWinになります。
そしてこの企業、特に外資系企業が作り出したカーストに、日本人のユーザーは弱い。特にマウンティングに勝つことより、負けてバカにされる不安に本当に弱い。
「クラリスのコンポのロードバイクで走ったらバカにされないだろうか?」
「自分レベルになるとアルテグラ以上じゃないと(でもレース優勝は目指さない)」
なんて思ってしまっている人がいるんじゃないでしょうか? おかしな話です。
まして内装変速やベルトドライブに対して、
「内装やベルトなんて、ママチャリと同じパーツを使うなんて恥ずかしい」
「シマノカーストから外れちゃうからマウンティングできないじゃないか」
なんて思う人がいるとしたら、それは周りに流され過ぎです。
みんなが払っている税金で維持している道路で、お金を払って買った自転車で、お金を払ってサイクリング旅やレースに出るのです。道路交通法とレース規約に反しない限り、みんなは自由に楽しむ権利があります。企業からお金をもらっている選手は高みをめざす義務がありますが、お金を払っている方は何の義務もありません。ルールの範囲内で、好きな自転車で、好きな格好で、好きに走ればいいんです。
私は、マウンティング商品としての自転車を否定はしません。車も家も、この国の経済も企業も多くはそれで回っていますし、他人に強要しないなら当人らの自由です。
ファッションとしての自転車も否定しません。E-Bikeもクロスバイクもロードバイクもカッコいいと私も思っていますし、自分がかっこいいと思うものに乗っていると気分が上がります。
でもその前に、自転車は移動、運搬、スポーツと旅を快適にして、人々の生活と健康と地域を豊かにする道具です。それを忘れてしまっては、毎年自転車事故があるにも関わらず、税金でわざわざ自転車道をひいたり道路交通法で公道走行を許可したり地域がイベントを開催する意味が無くなります。
楽に走りたいなら、電動シフターでも電動モーターでもつければ良いのです。メンテが大変なら、内装ベルトだって自由に選んで良いのです。
メーカーも、ユーザーの用途にシンプルに合理的な製品を追求すべきです。そこで途中でフラついたら、かえってカッコよさもマウンティングバリューも失われてしまうものです。私はそういう無骨なメーカーが好きですし、昭和の日本企業が世界で支持されていたのは、そういうところだったのではないでしょうか。
今すぐに、とは言いません。
かくいう私がメーカーの担当者なら、「内装変速のスポーツEバイク?やめとけ」と絶対に言います(笑)。レンタルでは実用が重視されますが、販売ではやはりマウンティングとファッション要素は大きいでしょう。少しづつ良いものを公平に評価していく流れを広げていくしかありません。日本人は欧州人とは違って、時間がかかるのです。
そこで私は妄想レベルで一計を案じました。ここからは冗談半分で見てください。
本当に内装変速はレースで外装変速に勝てないのか?
UCIのロードレースだけがサイクルスポーツではありませんが、やはりパーツマウンティングはそのUCIのレースの勝敗で決まってきます(これもおかしな話ですが)。つまり、レースで勝てばマウンティング勢も文句ないはずです。Di2もディスクブレーキもカーボンフレームも要はレースで普及したと私は認識しています。
卑下される内装変速ですが、そもそも外装最高級のシマノ「Dura-Ace」はフルコンポで40万円以上するのに対して、内装最高級「Alfine 11s Di2」は5万円程度です(Rohloffは日本で買えないので別にして)ので、それを比べるのはフェアではありません。
では同じく40万円かけて内装変速を作ったとしたら、レースで勝てないのでしょうか?
まずスポーツ用としての内装変速の強み弱みをまとめると
【強み】
- 変速の反応が早い
- 電動変速との相性がいい
- 無段階変速化できる
- チェーン落ちしにくい
- 石・泥・砂が多いフィールドでの駆動効率が高い
【弱み】
- 重い
- クイックリリースできず後輪パンク時のタイヤ交換に時間がかかる
になると思います(あまり詳しくないので識者求めます)。内装変速の総合変速幅は理論上外装よりも大きくとれそうですが、それについてはよく分かりませんでした。
特に外装変速の上位モデルが「素早い変速レスポンス」と「細かい変速幅」を謳っているなら、それを即時・無段階にできる内装が上位になるでしょう。
また電動変速との相性ですが、例えば無段階変速に電子ジャイロと自動変速を組み込んで、速度・斜度に応じたギア比をコンピューターで自動的に無段階調整して、人間は必要な場合のみスイッチで制御する、ということもできそうです。
さらにこれで問題の【クイックリリース】についても解決できそうです。内装ギアに変速用のバッテリーもセットにして、無線操作にすれば完全ワイヤレスになってより簡単にタイヤを外せるようになり、さらにフレームの自由度が増します。
問題は【重さ】ですが、シマノさんの技術力で、差を300gくらい(リムブレーキとディスクブレーキの重量差くらい)まで縮められないものでしょうか。。。重量1000gでギア比トータル500%くらいのやつがあれば。。。
これらが解決されてくれば、【強み】と総合して、フィールドによっては内装変速が選ばれてこないでしょうか?
プロのレースでも結構チェーン落ちで負けるケースがあるといいます。それが減らせるだけでも、ディスクブレーキ並みのメリットをもたらすのではないでしょうか。ぶつかり合いが多いフィールドではより強気に当たっていけます。
まぁ本質的には、UCIのレース基準によらず、自分のやりたいサイクリングに合わせて自転車を選んでくれるユーザーが増えることが一番の解決策なのですが。。。