電動キックボードのノーヘル・無免許合法化について〜電動アシスト自転車より優れた点は何か

今日、国会でついに最高時速20km以下の電動キックボードの16歳以上の無免許・ノーヘルでの運転を可能にする改正道路交通法が成立しました。

E-Bikeを推進し、様々なお客様に提供している私として、ちょっと私見を述べたいと思います。

電動キックボード禁止に乗り出す欧米

ロンドンでは、電動キックボードの公共機関内での爆発事故を受けて、一部のレンタルサービスを除く電動キックボードが禁止されました。

パリでも死亡事故を受けて禁止、マイアミやロサンジェルスなどの米国の一部の都市でも禁止の方向性に舵を切っています。

電動アシスト自転車に対する優位性はなにか

一方、欧米では電動アシスト自転車(E-Bike)は規制されることがないばかりか、エコや健康など社会問題解決の手段としてE-Bike購入の補助金まで出して推進し、自転車道整備も急速に進んでいます。

しかしながら今回、我が国では電動アシスト自転車の規制緩和や自転車道構築が未だ欧米に圧倒的に遅れた状況ながら、社会問題解決の手段として、電動キックボード規制緩和に乗り出したわけです。

それでは、電動キックボードと電動アシスト自転車を比べながら、その特性を考えてみたいと思います。

弊社使用の折りたたみE-Bike、ハリークイン

端的に言うと、「人力」をハイブリットするかどうか

電動キックボード(E-Scooter)と電動アシスト自転車(E-Bike)の違いは、機械としてはただ1点で、「電力のみ」で2輪を動かすか、「電力+人力」で動かすか、です。

それゆえにE-Bikeはペダル推進機構を有し、その分長距離を走れる(バッテリーが小さくて済む)代わりに、機構が複雑になるのです。価格や重量の違いは、目的とする走行距離によって変わります。20kmだけ走れば良いのであれば両者とも10万を切りますし、50km走るなら15万前後、100km走るなら30万前後はします。

短距離用途ではバッテリー容量の違いは少なくなり、機構が単純な分電動キックボードの方が安く作れるのでしょう。

逆に長距離や幼児などの荷物を載せる用途では、それを満たす電動スクーターは大容量のバッテリーと大出力のモーターを装備せざるをえず、電力と人力をハイブリットする電動アシスト自転車の方がより安く作れるでしょう。

機械としての安定性は、断然電動アシスト自転車

自転車は150年の歴史の中で、ありとあらゆるデザインが提唱され、現在の形に収斂されました。タイヤサイズ、フレームの長さなど、ミリ単位で今も激論が交わされています。

電動キックボードは、その完成された自転車のどのデザインとも異なり、非常に小さいサイズのタイヤで、低重心で設計されています。

当然ジャイロ効果がなく転びやすく、ちょっとしたでこぼこでも簡単に倒れてしまいます。

推進力についても、足で漕ぐ力が軸になるE-Bikeと比べて、完全に機械に頼る電動キックボードは急発進のリスクや、推進力が体感的に制御できないなど、より危険性が高くなります。

さらに車体剛性は段違いです。弊社のジャイアント、YPJなどは時速50kmくらいの下り道でも全く軋みもなく安定していて、E-MTBなどはジャンプしても大丈夫なように設計されています。自転車のフレームデザインは、安定性と重量のバランスを、世界中の職人が血眼に追及した結果の産物なわけです。

上下左右方向の力に対する剛性の差は、両者の形を見た瞬間に多くの方はわかると思いますが、実際に私もいくつかの電動キックボードを乗りましたが、下りのカーブは時速20kmを超えるとギシギシ行って車体がきしみ、E-Bikeやロードバイクの安心感とは全く違う、スリリングなライドを味わうことになりました。

まとめて言うと、転倒への耐性、推進力制御、高速・カーブ時の車体剛性の点において電動キックボードは電動アシスト自転車に比べて非常に不安定なものであると言えます。

社会インフラ・交通弱者救済としての価値は、E-Bikeの方が高い

これはもう言うまでもないでしょう。当然ですが、電動アシスト自転車は幼児を乗せることができますが、電動キックボードはできません。今都会で電動アシスト自転車を禁止すれば都会の保育行政は麻痺するでしょう。

そしてヤマハPAS-SIONに代表される高齢者向け電動アシスト自転車は、長い人気を持ち都会も田舎も免許を返納したお年寄りがたくさん電動アシスト自転車に乗っています。

電動アシスト自転車にすら乗れない高齢者が、より不安定な電動キックボードに乗れるというのは考えられないです。そこはすでに合法化されている電動シニアカーや乗り合いタクシーなどの出番でしょう。

電動アシスト自転車は、駐車場に乏しい都会の保育園に通わせる親御さんや、免許を返納した高齢者の足として、すでに社会インフラとなっています。

これを一歩進めて、オランダ、フランス、ドイツなどでは車を都市に入れず、小型モビリティを前提として都市設計をして、インフラ負荷・環境負荷のない健康都市を作ろうという動きが進んでいるわけです。

通勤・通学・通園・買い物・通院・観光の6大移動需要全てにおいて、圧倒的に電動アシスト自転車

まず、都会の多くの駅前・駅中駐輪場や、大型スーパーの駐輪場は、タイヤをロックする方式の有料駐輪場です。

つまり、電動キックボードはほとんどの駐輪場に停められないのに対して、電アシが停められない駐輪場はありません。たとえロックのない駐輪スペースでも、電子ロックだけでキックボード置くのは不安すぎます。防犯登録もないですし。

駅への通勤あるいは仕事の帰りに買い物や子供の送り迎えを考える場合、どう考えても電アシ買った方が万能です。

通院についても、帰りに薬をもらって帰る場合や、買い物にスーパー寄る場合は、同じ話です。

通学については、地方でも最近は高校が電アシ車に通学許可証を発行しています。一体どれだけの高校が電動キックボードでの通学を許可するでしょうか?

観光については、お土産を買えない、駐輪できるカフェやレストランを選ぶ必要がある、何より電アシの方がレンタル価格が安い、家族で楽しめない(16歳未満は乗れない)など、やはり電アシが上位互換します。

まとめるなら、通勤・買い物・通学・登園・通院・観光の6大移動需要の全てにおいて、電動アシスト自転車を買った方が上位互換で便利なわけです。というか、それほどまでに日本人の生活に自転車は溶けこんでいるのです。これほどの社会的蓄積を放棄して電動キックボード・スクーター準拠の社会に再構築するのは非効率的すぎます。

電動キックボードを推進することで満たされる社会需要というのは。。。レンタルサービスで、ほんのちょっと移動するだけのサラリーマンか観光客か、目立ちたがり屋、新しい物好きというところでしょうか。

健康推進としての価値は、断然E-Bike

E-Bikeは、実は運動を回避するためだけの道具ではありません。ヨーロッパではE-Bikeのジャンルとして「フィットネスバイク」があるのですが、実はE-Bikeは、乗り手のニーズに応じて、どのような地形でも適切な運動負荷を連続して与えることができる、最高のフィットネスマシーンなのです。ヨーロッパ製のE-Bikeは、カロリー計算機能や体組成計との連携、「どこまでも走りたくなる」ような快感を与えることに特化したアシスト設定がなされ、統計データでは非電動の自転車よりもむしろ運動量が多くなったという結果も出ています。


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同じ風景の中でひたすら走るジムよりも、日常の中で、探検しながらカロリーを消費することができるのです。息が切れるような部分だけアシストしてくれる。

電動キックボードは、全てを機械に任せます。

私は小さい頃、ドラえもんの映画で「ブリキの迷宮」という作品が忘れられませんでした。そこではチャモチャ星という架空の星があり、そこの人類は機械文明を発達させ、なんでも発明してくれるロボットを作りました。そのロボットは人間を運んでなんでもしてくれるカートを作り、それに頼り切ったチャモチャ星の人類はカートなして歩くこともできなくなり、自堕落になった人間に絶望してロボットが反乱を起こし、人類はみな収容所に入れられてしまいました

運動をひたすら回避し続ける人々の未来が、私にはチャモチャ星人の姿に重なって見えてしまいます。

中国ではいま自転車がオワコンと言われ、電動スクーターが爆発的に広がっています。対してヨーロッパは、E-Bikeが広がっています。運動を悪いことと捉えるか良いことと捉えるか、その根本が違うのだと思います。日本は、どちらを目指そうと言うのでしょうか。

航続距離は、もちろんE-Bike

E-Bikeは人力と電力をハイブリットします。結果航続距離は80kmから100km以上に及びます。対して電動キックボードは全てを電力に頼るため、5kmや長くて30kmくらいの航続距離になります。長い距離を旅する前提で作られてE-Bikeと、ちょっとした距離を乗るキックボードでは運用目的が違います。

環境負荷は、もちろんE-Bikeが低い。

E-Bikeは人力と電力をハイブリットします。同じ距離を走るにも、より少ない電力消費で、より小さいバッテリーですみます。

産業政策的には、E-Bikeでは?

現在電動キックボードの生産は、ほとんど中国です。認可されて市場に出回るのも、圧倒的な価格競争力で、中華製か、中国から輸入したものをちょっとカスタムしたものになるでしょう。

対して電動アシスト自転車についてはヤマハ、パナソニック、ブリヂストンをはじめ、世界のシマノなど、プロダクトの国産比率はまだまだ高く、ユニットについては、世界にも通用しています。パナソニックはバッテリーも自社で揃えています。さらに中国国内では電動スクーターが自転車を駆逐しつつあり、自転車産業は斜陽化しつつあります。産業振興としては、電動アシスト自転車の方が国内波及は大きいのではないでしょうか。

電動キックボードの良いところ

重量が軽い。

E-Bikeは高い安全性が求められ、しっかりしたフレームと、ペダル機構を有しているので、どうしても重くなります。ママチャリの電動は25kg、本格スポーツタイプは20kg、持ち運びを想定して作られた超軽量モデルでは10~15kgになります。

その点電動キックボードは実用的な航続距離を持つモデルで軽いものは5kg、安全性も両立したモデルで10kg〜20kg程度と、E-Bikeよりはやや軽くなります。

サイズはやや小さい。

電動アシスト自転車でも、弊社が使っているハリークインやベクトロンのように折り畳んで携行することができるモデルもありますが、それでもペダル機構がない分、電動キックボードの方がやや小さくなります。まぁ場所を取らないことを重視するなら折りたたみ電動アシスト自転車でいいと思いますが。この差は東京都心部など、場所がないところでは重要になります。

ただそれゆえに、自転車以上に簡単にもっていけるので、盗難のリスクは非常に高くなります。去年イギリスで、Googleのアンチ勢力がGoogle傘下の電動キックボードシェアサービスのキックボードを大量に盗んで壊した事件がありました。

警察が長い年月かけて築いた自転車防犯登録体制も、電動キックボードには適応されません。

電子ロック(動かしたら大音量のアラームが鳴る)は日本人には向きません。買い物やご飯食べてる間に、勝手に大音量なり出したらひと様の迷惑になる、と思ってソワソワしてしまう人も多いのではないでしょうか。

価格は安い。

ヤマハやパナソニックなどが出す電動アシスト自転車は、安いものでも10万円以上します。対して電動キックボードは5万やそこらで買えてしまします。

これは安全性と航続距離の設定の違いだと私は思います。ヤマハ、パナソニックをはじめ多くのメーカーさんが、電動アシスト自転車が多くの人々の生活を支える足であると自覚して、過剰とも言える安全性能を追及しつつ、長持ちする堅牢さと快適さ、便利さを両立させています。

電動キックボードも同じ構えで作れば、電動アシスト自転車よりさらに強いモーター、大容量のバッテリーを必要とする分、それ以上のコストがかかってくるはずです。実際電動アシスト自転車の価格の多くの部分が、モーターとバッテリーになります。

より楽に乗れる。

電動アシスト自転車は、最大3分の2の力をモーターがアシストします。電動キックボードは100%です。その分当然楽でしょう。ただ普段E-Bikeに乗っている者として思うのは、街乗りで考えればE-Bikeというのはほとんどペダルに足を乗っけているだけで進みます。楽しようと思えば全く息を上げることなく移動できます。

66%と100%の違いです。そこまで楽したいのならば、もうちょっとお金出してタクシーに乗れば最高に楽できると、私は思ってしまいます。

スカートやスーツでも乗れる

立ったまま足を動かさず乗れる、というのは服装の自由度が違います。最近は「自転車に乗れるスーツ」なるものも販売されていますが、これは都会のビジネスマンやおしゃれな女性には重要でしょう。

私は、スーツ文化・制服文化はそろそろやめて、職場・学校では服装を自由にして生活の中に運動を取り入れやすくする方が、国策として大事だと思っていますが。

分かりやすい未来感がある

新しいもの好き、突飛なもの好きな人には、E-Bikeはちょっと地味です。最近のE-Bikeはインチューブバッテリーで外見が非電動の自転車と変わらなくなってきていますし。E-Bikeは本質を求める人、エコや健康に価値を見出す人、旅を愛する人のためのツールで、奇抜で目立ちたい人にはいまいちかもしれません。その点電動キックボードは、明らかに今までの乗り物とは一線を画したもので、そういうのをバンバン乗り回したい人には魅力的でしょう。かつて一世を風靡しながら消滅したセグウェイと似ています。

自治体が「新しいコンテンツ造成」として申請する場合も、E-Bikeでは既存の自転車と変わらない感じがありますが(中身は別物なのですが)、分かりやすく予算を通しやすいのかもしれません。

結論:今回の電動キックボード規制緩和の流れに、モヤモヤしたものを感じざるにはいられない。

つまるところ、電動アシスト自転車でほぼ全ての社会的ニーズが満たされると言うのに、なぜより危険な電動キックボードの規制を緩和するのか、歩道乗り入れやノーヘル運転という、ヨーロッパ人が聞いたら卒倒しそうなことを是とするのか、私には正直理解できません。

本来国がすべきなのは、欧米に比べて圧倒的に遅れている自転車道整備、都市部の駐輪場整備、そして自転車流通・整備網の品質維持や交通表示を適切にして、マイクロモビリティが安心して走れる環境を整備することです。昭和期に邁進した、自動車をこの狭い国土にバンバン走らせる政策と決別することです。さらに言えば、人力の2倍というアシスト比率規制というメーカー泣かせのガラパゴス規制を廃して、欧米と同じ出力・速度規制に統一化し、国内メーカーの競争力強化を図るべきでしょう。そしてなぜかエコ対策で推進しているEV補助金にE-Bikeが入っていませんが、E-Bikeを欧米同様にEV(VehicleとはCarだけでなく、自転車も含めた乗り物一般を意味する)として認めるべきです。日本の政治家の方々は、E-Bikeなぞ所詮Vehcleには値しないと見下しているのかもしれませんが、一度VektronでもYPJでも乗ってみれば、それが明らかに車やバイクにタメを張れる、立派なElectric Vehcleの一員であることが理解できると思います。

現状ですでに電動キックボードによる事故は起き、社会問題化しています。その根本原因である自転車専用レーンの不足を解決せずに規制緩和して、歩道を走らせればどうなるか。

私はイギリスと同様に、E-Bikeと電動キックボード両方にヘルメット着用を義務付けるべきであるし、免許証はなくてもせめてマイナンバーカードの携帯を義務付けて両者とも律して、初めて車とタメをはって車道を走行できると思います。

このままではロンドンの電動キックボード爆発事故、パリの死亡事故の再来は必ず起こるでしょう。

大阪府警や警視庁が電動キックボード規制強化に動きはじめた矢先に、上から規制緩和。この現場と上層部のギャップに、私はちょっと非合理的なものを感じずにはいられません。

国家政策は、声の大きい人の意見を聞くことではなく、広く人々の役にたつものために行われなくてはいけません。そうでなくては、これから確実に現れるであろう電動キックボードによる死亡事故の遺族に、大切な子供や親、恋人を奪われた遺族に、どうして政治家が、企業が今回の判断が正しかったと胸を張って言えるのでしょうか。飛行機でも人は死にます。車でも、鉄道でも、自転車でも。それでもそれらが動き続けるのは、それが社会に必要不可欠で、他では代替不可能だという正義があるからです。私はその根本が歪んでいないことを祈るのみです。

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